(第269号)龍馬ブームの火付け役『汗血千里駒』 (平成22年10月1日号)

 今月は収蔵資料から伝記小説『汗血千里駒』を紹介します。  

「汗血千里駒」表紙
269「汗血千里駒」表紙

 現在、NHK大河ドラマでは坂本龍馬の生涯を描いた『龍馬伝』が放映されています。  

 今回紹介する『汗血千里駒』は、龍馬を主人公にした初の伝記小説で、明治十六年(一八八三)から『土陽新聞(現・高知新聞)』に連載されたものを刊行しました。維新後しばらく忘れられていた龍馬が、再び世間で知られる契機となった作品として有名です。  

 そして大河ドラマの第一回冒頭シーンで岩崎弥太郎に龍馬の真の姿を取材する記者が、本書の作者である坂崎紫瀾(一八五三 ― 一九一三)です。  
 作者の坂崎紫瀾(本名・斌)は明治期のジャーナリスト・自由民権運動家・女権拡張論者など、多くの肩書きを持ち活躍した人物です。  

 父は土佐藩の侍医を勤め、紫瀾は江戸の鍛冶橋の土佐藩邸で生まれました。しかしながら江戸を襲った安政の大地震を転機に、一家は故郷・土佐に戻り、紫瀾は藩校・致道館に入学し、ここでその頭角を現します。後に自由民権運動に参加活動し、「不敬罪」で投獄されますが、『汗血千里駒』は、その保釈中の明治十六年に高知の 『土陽新聞』に書いたものです。これが大変な評判となり、龍馬は初めて「維新の英雄」として世間に知られるところとなり、後の龍馬ブームの火付け役となりました。  

「汗血千里駒」挿絵
269「汗血千里駒」挿絵

 本書は当館勝俣文庫の中の一冊で、新聞連載後すぐに刊行された貴重な初版本です。前編・後編・続編の全三冊から成りますが、残念ながら同文庫に収められているのは前編のみの一冊です。表紙にはおなじみの龍馬の肖像画が描かれています。  

 なお、龍馬は慶応二年(一八六六)の寺田屋事件で負った傷を癒すべく、妻のお龍を伴い薩摩に湯治へ赴きますが、これが日本で最初の新婚旅行だといわれています。このことについて本書では、自とおのづ彼の西洋人が新婚の時には「ホネー、ムーン」と呼びなして花婿花嫁互ひに手に手を取りて伊太利等の山水に逍遥するに叶ひたりとや謂はんと夫妻の薩摩行きを西洋人の「ホネー、ムーン(ハネムーン)」に例えており、これが日本初の新婚旅行の由来となっているようです。
【平成22年 広報みしま 10月1日号 掲載記事】