歴史の小箱
(第238号)大工道具~墨壺~ (平成20年3月1日号)
郷土資料館三階展示室には、「学芸員の一品」と題して展示コーナーを設け(平成26年現在は展示していません)、収蔵資料の中から一品を選び解説しています。今回は、現在展示中の「墨壺」について紹介します。
墨壺は、大工さんや石工さんなどが、材料に直線を引いたり水平を測るために用いる道具です。
池と呼ばれる部分があり、墨汁を浸した綿が詰められています。壺車という部分には墨糸が巻かれており、その先端には仮子(軽子)と呼ばれるピンがついています。この仮子を材料に固定し、墨壺を引くと、墨糸が池を通って墨汁を含んで出てくるという仕組みになっています。出てきた墨糸をぴんと張ったところで、墨糸をつまんで材料に打ち付けるようにして離すと、まっすぐに線を引くことができるというものです。
材質は、ナラ・クワ・ケヤキが用いられ、大きさや形は様々です。なかには亀や龍の美しい彫刻が施されているものもあります。現在ではプラスチック製のものも市販されていますが、昔は大工さん本人が自ら作ったもので、デザイン力や技量の証でもありました。それぞれ独特の魅力があり、職人のこだわりが感じられます。
墨壺の起源は、明らかではありませんが、古代エジプトで生まれたといわれています。初めは今より簡単な造りのもので、同じような道具は世界各地にありました。道具が伝播していくなかで、中国において改良され、日本に伝わり今のような「墨壺」になったと考えられています。
大工さんの間では、墨壺、サシガネ(※1)、チョウナ(※2)は「三種の神器」と言われ、特に大切にされています。正月には、この三種類の道具を床の間に飾り、一年の無事と工事の成功を祈ります。飾る際には、これらの道具に墨刺(※3)という道具を加え、「水平」を表す「水」という文字に見えるように組み合わせます。水平でなければ建物を建てることはできません。大工さんにとって「水平」は大切な意味を持つ言葉なの
です。
※1サシガネ
寸法を測ったり、直角をみるためなどに用いられる道具です。簡単な算数計算も できる優れものです。
※2チョウナ(カンナ)
木材の表面を削るのに用いられます。
※3墨刺
竹製で、竹の先は細く裂いてあります。墨壺に添えて、木材や石材にしるしをつけ、字を書くのに用います。
【平成20年 広報みしま 3月1日号 掲載記事】
歴史の小箱(2007年度)
- (第238号)大工道具~墨壺~ (平成20年3月1日号)
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