歴史の小箱
(第209号) 江戸時代の文学(1) ~滝の本連水と勝俣文庫~ (平成17年10月1日号)
滝の本連水という人物をご存じでしょうか。江戸時代後期から明治時代前期にかけて活躍した俳人です。彼は富士山を創作のテーマとし、富士山とそれを歩き回る自分を句にしました。
当館では、さる平成2年に、「富士を廻る俳人 滝の本連水とその師匠」という企画展を行いました。そこでは連水の俳諧(昔は俳句の事をこう言いました)活動と、彼の周辺にいた俳人たちの活動を明らかにする事で、三島の俳諧について明らかにしました。
さて連水は本名を勝俣猶右衛門と言い、伊豆佐野の名主を務めた農家でした。彼の生まれ育った勝俣家には、江戸時代の書物がたくさん残っていて、当館では同家からの寄贈により、これらの資料を収蔵しています。現在は東京の国文学研究資料館と共同で、その全貌を調査している最中です。
調査当初は、有名な俳人であった連水の家が持っていた本ですから、俳諧の本ばかりなのだろうと思っていました。しかし調べてみると、そればかりではありませんでした。たとえば古典の注釈書、和歌の本、さらには、随筆、歴史書など、様々なジャンルの本が数多く取りそろえられている事に驚かされたのです。
中でも興味深いのは、江戸時代後期の小説が大変豊富な事でした。曲亭馬琴『南総里見八犬伝』などの「読本」と呼ばれる伝奇小説や、『大岡仁政録』などの「実録」と呼ばれる、筆で書き写された小説は大変多く、個人のコレクションとしては全国でも大きなものの一つであると言う事ができそうです。
現在の江戸文学研究では、俳諧など一つの文学ジャンルに閉じこもる事なく、ジャンル同士の交流を考えよう、という研究が盛んに行われるようになって来ています。勝俣文庫は、そのような研究を行うのに絶好の材料ではないかと思っています。今回の調査によって、滝の本連水とその家系を、俳人としてだけでなく、総合的な文化人として考え直す事ができるのではないかと考えています。
(明星大学講師 勝又 基)
(広報みしま 平成17年10月1日号掲載記事)
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