歴史の小箱
(第210号) 江戸時代の文学② ~江戸文学に描かれた三島~ (平成17年11月1日号)
俳諧で知られる勝俣文庫に、意外にも小説がたくさん見つかったという事は前号でお話ししました。今回は、勝俣文庫の本を中心に、江戸文学に描かれた三島についてお話ししたいと思います。
江戸時代の小説で三島を舞台にした場面は少なくありません。しかし最も有名なのは、く十返舎一九著『道中膝栗毛』(文化六年〈1809〉刊)でしょう。これは、弥次郎兵衛と喜多八という二人組みが、伊勢神宮へ向かって旅をする最中、様々な事件に巻き込まれるという滑稽話です。
三島での場面はこうです。弥次郎兵衛と喜多八は、道すがら買ったスッポンを藁づと(わらづつみの事)へ入れておきました。三島の宿に着いて眠っていると、深夜になってスッポンが藁づとを食い破り、弥次郎兵衛の指にかみつきました。『道中膝栗毛』では、この場面が挿絵にもなっています。
私たちは調査中、三島が描かれているものを他にもいくつか見つけることができました。
たとえば『西国巡礼娘敵討』という小説。箱根を越えて三島に着いた主人公常右衛門は、三嶋明神(三嶋大社)の社前で熟睡してしまいました。すると、箱根から跡をつけて来た悪者に五百両の金を盗まれてしまいました。難所でもあり、旅人から金品を奪う乱暴者もいた箱根山を下りて最初の宿場であるという特徴が生かされています。
曲亭馬琴著『青砥藤綱模稜案(あおとふじつなもりょうあん)』(文化九年〈1812〉刊)にも、三島を舞台とした場面があります。
青砥藤綱は大岡越前などと同様、名裁き役として、江戸文学の様々な作品に登場する人物です。鎌倉時代、若き日の藤綱は、仕官を願って北条時宗の三嶋大社詣でにこっそりついて行きました。片瀬川(神奈川県)のほとりで牛を叱るふりをして当時の政治を批判したところ、時宗に感心され、めでたく取り立てられました。
挿絵には三嶋大社が、斜め上から見た形で大きく描かれています。ただし、現在の三嶋大社の様子とは多少異なっているようです。 (明星大学講師 勝又 基)
(広報みしま 平成17年11月1日号掲載記事)
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