歴史の小箱
(第110号) ~珍しい農具~ 『オオアシ』 (平成8年8月1日号)
オオアシは文字通り「大足」と書き、足に履き、田に入って農作業を行うための道具です。素材の大部分は木。足を乗せる部分の鼻緒は藁【わら】。大足を持ち上げるための紐【ひも】はシュロ(棕櫚)です。シュロは丈夫で、かつ水に強い繊維でしたから、いろいろな農具に使われました。
オオアシは湿田で使用される田下駄【たげた】の一種。昔は静岡県内各地に様々なものがありました。名称にはオオアシのほかにナンバがあります。その形には割竹を横に並べたもの、木製で箱舟型のものや下駄にそっくりなものなど、地域によって異なっています。
写真のオオアシは三島の隣、裾野市の公文名【くもみょう】で採集したものです。三島では採集例が無く、文献で錦田(夏梅木)の竹製のものが知られているのみですから資料の比較は出来ませんが、おそらく昔は三島にも同じようなものがあったものと思われます。
一般的に、オオアシは湿田で作業する人が泥の深みにはまらないための履き物と思われていますが、実際には田植え前の田に肥料となる草や小枝を埋め込むための道具として使われました。
肥料はいわゆる緑肥です。化学肥料の無かった昔は草や木の枝を埋め込んで腐らせた有機肥料が施されたものです。緑肥は別名カチキと呼ばれていました。
カチキを埋め込むことをフンゴムといいます。すなわち「踏み込む」ことです。ところが作業が大変。なにしろ山から刈ってきたばかりの木ですからイバラやトゲだらけ。素足で踏んだら足は傷だらけ。そこで考案されたのがオオアシでした。これなら傷つかず、効率よくフンゴムことができます。先端に結ばれたシュロの手綱は、泥の中でもペタペタと楽に踏み込めるよう、オオアシを持ち上げるための綱でした。
わが町の無形文化財の芸能「三島大社のお田打」(一月七日)の中にも登場する昔ながらの珍しい農具です。 (広報みしま 平成8年8月1日号掲載記事)
歴史の小箱(1996年度)
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