歴史の小箱
(第41号) 江間石で造られた 餅臼 (平成2年11月1日号)
江間石をくりぬいて造った餅臼をご紹介します。立臼。真ん中がくびれた形です。
三升搗きです。この臼が家庭の年中行事を盛り上げました。子供たちは臼で餅をつく「ペったん、ペったん」の音に心をときめかせました。最近でこそ、餅はスーパーなどで一年中買うことができ、食べたいときに口にすることができますが、昔は餅をつく日がだいたい決まっていました。その日にならないと餅は食べられず、その上ふだんお菓子などあまり無かった時代のことでしたから、餅をつく日が楽しみでならなかったそうです。
写真の餅臼は元山中の農家で使われている現役。ここでは一年に六回餅つきをします。
十二月は正月の餅。九日餅は良くないなどといい、二十八日か三十日につくそうです。
一月は二番正月(十五日)のため。ドンドン焼きや柿の木叩きは、この時の行事です。
三月三日は、ひな節句。菱餅やあられを作ります。
五月五日は端午の節句。男児の成長を祝います。
忙しい夏の盛りを過ぎ、盆には、また餅をつきます。
そして秋の村祭り。十月二十日が最後の餅つきでした。
まさに餅臼は年中行事の立て役者。一年間ほとんど出ずっぱりの奮闘ぶりです。このような酷使に耐えるために、堅く丈夫な木や石が餅臼用に使われました。けやきなどの堅い木とともにこの地域で多いのは、江間石製の餅臼です。
江間石は伊豆長岡町江間から産出された石です。江戸時代に、灯籠に使ったという記録があります。石屋さんは「やっこ石(柔らかい石)」と表現し、細工がしやすく、火に強い石質だと言います。三島や田方地域独特の生活用具材と言えるでしょう。
(広報みしま 平成2年11月1日号掲載記事)
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