歴史の小箱
(第43号) 新春の大空に舞う 凧 (平成3年1月1日号)
障子型で手書き武者絵の江戸型凧を展示しました。
凧という字は、風に巾と書きます。文字通り風を受けて大空に舞い揚がります。江戸初期の武士の戦では、天高く揚がる凧を利用して敵地の測量をしたり、凧の尾に密書を託して援軍を求めたりしたこともあったといいます。庶民が凧掲げをするようになったのは、江戸中期以後だとされます。庶民の凧掲げは年中行事となり、平和な楽しい遊びになりました。
凧には、地域それぞれの特色があります。凧の呼称にはハタ、ノボリ、イカ、タツなどがあり、その形もきまざまです。
静岡県は凧どころと言われます。凧掲げ祭りで知られた浜松凧は四角い凧。ベッカッコウ、トンビ、アタマッキレなどのユニーク凧の多い小笠郡大須賀町の横須賀凧。西部地方はバラエティーに富み、杖挙にいとまがありません。中部地方の代表凧は、下方が左右に張り出した型の駿河凧です。駿河凧の分布は広く、東部地方にもこの型が伝わっています。展示の(写真)縦に長い障子型の江戸凧も各地に見られる形です。
凧絵によく描かれる画題は武者絵でした。義経、頼朝といった歴史上の英雄は特に好まれました。昔の子供たちは歌舞伎役者の錦絵を手本に、自分で作った凧にお気に入りの武者絵を競って描いたものだそうです。
凧の形や呼称に地域の特色があるように、凧を掲げる季節も各地で異なっています。正月を中心とした冬に凧掲げをするのは東京。二月から四月にかけては長崎地方。秋田では七月。沖縄は十月だといいます。男児の初誕生を祝って大凧を贈り、端午の節句(五月)のころに掲げるという風習は神奈川県をはじめ東海地方に伝わっていました。
今では昔のように凧掲げをする機会も多くなく、地域独特の凧も減少しつつありますが、今年はぜひ、新春の大空に凧を舞わせてみませんか。
(広報みしま 平成3年1月1日号掲載記事)
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