歴史の小箱
(第347号)郷土資料館の企画展『三四呂人形 これまでとこれから』 (平成29年4月1日号)
三四呂人形は三島出身の人形作家野口三四郎(一九〇一~三七)によって作られ、子どもを題材にした作品が多数あります。人気があるのは「桃子」と「里子」で、高さ十cmほどの愛らしい張子(和紙)の人形です。一人娘桃里ちゃんの名前から「桃」と「里」をとり、「桃子」は生後五~六カ月くらいで、わずかに首をかしげながら、周囲を見つめています。「里子」はお座りできる一歳ころで好奇心あふれたまなざしが印象的な様子です。父親の愛情が込められた作品は八十年たった今も周囲を暖かく照らします。
また、庶民の家族を題材にした作品の一つが「磯」です。大漁の魚を背負う父親、魚がずっしり入った網を担いだ母親、両親の間で、嬉しそうに魚を手にはしゃぐ子ども。ほぼ裸で満足気に砂浜を歩く親子三人を三四郎は牧歌的に描写し、優れた張子作品に仕上げています。
当時、東京に住む三四郎のもとで手伝いをしていた妹の故・渡辺ちゑさんの話では、三四郎は何日も千葉県の九十九里浜へ取材に行き、この作品を作り上げたといいます。昭和七年(一九三二)~十一年(一九三六)の間の制作と推定されます。この作品はロマン主義の画家として有名になっていた青木繁(一八八二~一九一一)の
絵画「海の幸」(重要文化財、ブリヂストン美術館蔵) や「漁夫晩帰」(ウッドワン美術館蔵)の影響を感じます。
「海の幸」は、千葉県館山市布め良らの海岸で取材した作品で、マグロを担いで海辺を行進する十数人の裸の漁師たちが荒々しいタッチで勇ましく描かれています。「漁夫晩帰」は、豊漁の網を担いだ裸の漁師二人としま
模様の着物の女性二人、裸の男の子が、夕日の海を背に家路に向かっている家族のようです。同じ漁師でも三四郎と青木繁は表現方法は異なりますが、繁から始まるロマン主義的絵画の影響は、その没後二十年後には創作人形の世界にも及んでいたのです。
三四郎には、このほか晩年の傑作「春日だんらん」(三嶋大社宝物館蔵)という親子五人と犬と鶏が仲良く並んでいる暖かな家族を描写した張子作品も残っています。実は、妻しげさんを二十五歳の若さで亡くし、翌年桃里ちゃんを三歳で失い、自身も胸を患う苦難の人生でしたが、彼の作品には、子供や家族への強い思いが優しくあふれています。
桃子と里子
「磯」満足気に砂浜を歩く親子三人( 庶民の家族を題材にした作品の一つ)
【広報みしま 平成29年4月1日号掲載記事】
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