歴史の小箱
(第255号)館蔵資料紹介 長谷川雪旦関連資料 (平成21年8月1日号)
館蔵資料のうち、未調査の絵画資料の整理・調査を行い、江戸時代の画家として著名な長谷川雪旦関連の画稿類(下絵など)が数点含まれていることがわかりました。
今回、その画稿類を展示公開できるように補修しましたので、そのうちの一点を紹介します。
うっすらと彩色が施された淡彩の画稿(絵の下書き)です。騎驢図は室町時代以降に好んで描かれた画題です。中央の瀑布 (高い所から白い布を垂らしたように流れる滝)を背景として、驢馬に乗る人物(高士)と、書物と楽器(琵琶でしょうか)を棒で担いだ従者が画面中央に描かれています。この主従の二人に加え、さらに画面左下にもう一人の人物が描かれており、景観重視の山水画というよりも、人物に重きを置いた画面構成となっているようです。
画稿『山水騎驢人物図』紙本淡彩 60.1×28.1㎝
滝の断崖や岩組み、樹木などの表現にみられる筆法に、長谷川等伯の流れをくむと自称する雪旦の技量が感じられます。画面右下端には朱文方印「長谷川雪旦書画記」の印章が押されています。東京の国立国会図書館にも同じ印章が押された雪旦の画稿類が保管されています。
◆長谷川雪旦について
長谷川雪旦(一七七八~一八四三)は、江戸後期の画家です。名は宗秀、俗称は茂右衛門または長之助といいます。号は一陽庵、巌岳斎、岩岳斎、岳斎、また俳諧を好み五楽という俳号で多くの文人たちと交流しました。江戸の下谷三枚橋(東京都台東区)に住まいし、彫刻大工から画工となり、後に桃山時代の巨匠長谷川等伯の末流を自称して長谷川を画姓としました。
雪舟の流れをくむ漢画(中国・宋元画の様式による日本の水墨画)の大家として活躍した雪旦は『江戸名所図会』の挿図を担当し、一躍その名が知られるようになりました。これを機に町絵師として最高の位である法橋位を、さらに晩年には法眼(称号)に叙せられました。的確な素描力と、安定した構成力で描かれた木版による挿
図や肉筆画(実際に筆で描いた絵)は高い評価を得ており、画稿類についても雪旦の画歴を知る上で貴重な資料となっています。
【平成21年 広報みしま 8月1日号 掲載記事】
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