歴史の小箱
(第86号) ~拓本でめぐる文学散歩~ 若山牧水ほか (平成6年8月1日号)

碑面には、
「のずゑなる 三島のまちの あげ花火 月夜の空に 散りて消ゆなり」
と、読めます。
大正の末期、東京から沼津に移り住んだ牧水は、しばしば箱根や三島に遊び、友人との交遊を深め、いくつかの歌や、三島の町の印象を言葉にして残しました。冒頭の歌は、いつの夜か、三島で、夏祭りの花火が打ち上げられるのを見物しながら詠んだ一首だろうと思われます。
三島には、牧水の碑のほかに、いくつかの句碑、歌碑、文学碑があります。古い時代のものでは、広小路の蓮馨寺境内に残る松尾芭蕉の句碑。近代から現代にかけての句碑は、白滝公園脇の「化粧水の歌」碑、桜川沿いに新しく作られた文学碑、箱根旧街道の「オープンロード」碑などなど。文学と三島を愛する人々の絶好の散策コースとして知られてます。
さて、郷土館では、このような三島と、三島周辺地域の句碑や歌碑、文学碑を拓本に採って一堂に集め、気軽に文学散歩をしていただこうと「句碑と拓本」展を開いていました。
実際の碑を現場の風景と合わせて見物することも趣のあるものですが、墨と白のモノクロ世界の拓本には、また、異なる風趣が感じられます。
拓本は、金石【きんせき】に刻まれた文字や記号、絵などを紙に写し採って研究材料とする博物館の技法で、良い拓本を採るには、習熟した技術が必要とされます。
技法の一つである湿拓【しったく】は、碑面に画仙紙を密着させて張り、その上から墨を打ち、墨がのった黒い部分と、黒土がのらなかった白い部分との微妙なコントラストを紙面上に作り上げます。
(広報みしま 平成6年7月1日号掲載記事)
歴史の小箱(1994年度)
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