(第47号) 一枚の古写真から 三嶋大社前風景 (平成3年5月1日号)

三嶋大社前鳥居脇の風景
 今開催中の「花島兵右衛門展」に展示している一枚の古写真。これが語る歴史に興味を引かれます。
 三嶋大社前、鳥居脇の風景。二基の灯籠が見えますが、現在と違うことにお気付きですか。鳥居の両脇に立ち、しかも、前に位置しています。江戸時代の浮世絵など、昔の大社前風景画には、やはり、灯籠が写真のような位置に描かれていますが、古くはこのような配置であったことが分かります。
 ところで、本題は灯籠の位置ではありません。写真の左端に写っている立て札と、その回りに何やら意味ありげに立っている人たちが問題です。まず、立て札。これには墨で「説教」と大きく書いてあります。そして、回りの人たち。この写真は一体何を写したものでしょうか。
 この大社前の風景と関連があると思われる事件と、それについての新聞記事を見つけました。
 明治十五年(一八八二)八月十五日付の『沼津新聞』に次のように載っていました。
 「耶蘇教信徒の伊藤某ほか五、六人が三嶋大社鳥居前で説教を始めたところ、そのうち僧侶と口論になり、集まった野次馬連が石や草履を彼らに投げつけるなどの大騒ぎになり、アーメン先生たちは慌てて近くの民家に逃げ込むやら、巡査が出るやらという大騒動になった」(要約)
 「説教」の立て札といい、回りに立つ人たちといい、写真は明らかにこの記事を裏付ける風景。つまり、明治初期のキリスト教伝道風景だと思われます。小出正吾著『童話から童話へ』の中にも、「明治の初め、三嶋大社前にて路傍説教中のジェームズ・バラ博士が、野次馬に追われて小出家にかくまわれた」という話があります。
 この事件が機縁となって、町の有力者だった小出家と花島家がキリスト教に改宗します。「三島の近代化のあけぼの」のころの出来事でした。
(広報みしま 平成3年5月1日号掲載記事)