(第52号) 藁で作られた おひつ入れ (平成3年10月1日号)

 ついこの間まで青々としていた水田が、黄金色に輝く季節。もうすぐ、収穫の秋本番を迎えます。ふるさとの秋に、稲の実りの風景は欠かせません。
 この季節に合わせ、藁で作ったおひつ入れを一つ紹介します。
 一台の電気ジャーがあれば、炊飯から保温までができてしまう今日では、おひつは家庭から消え、おひつという言葉さえ忘れ去られようとしています。おひつ、すなわち飯びつは、お米を主食とする日本には、無くてはならない家庭用品です。
 炊いたご飯をいつまでも温かく保たせ、おいしく食べようと考えることは、お米を食べる民族の当然の望みだったと言えるでしょう。そこで考え出きれ、作られたものがおひつ入れでした。
 材料は藁。束にした藁を円形状に巻き上げ、藁で上下の輪と輪を結び、おひつがすっぽり入る深さまで編みあげて身の部分ができ上がり。これは、やはり同じ方法で作った藁の蓋が付きます。
 藁の特性の一つに保温性があげられます。この性質を利用したさまざまな民具が各地で作られました。雪国で見られる藁ぐつや藁手袋、冬季の野菜貯蔵用の藁小屋などは、よく知られたものでしょう。身近にあって気がつかないものでは、納豆の藁づと。どこの家にもある畳は、藁利用の代表民具と言えます。藁の良さは保温性だけに限らず、通気性も兼ね備えている点です。ご飯を腐らせず、かつ温かくというおひつ入れには、まさにうってつけの材料でした。
 寒い季節には、おひつ入れに赤ん坊を寝かせたりもしたものだと聞きます。イズミ、エジコなどと称され子守びつ専用に使われた地方もあるようです。藁の温もりは、母の温もりでもあったのです。
 藁は、米の副産物と言われますが、利用価値には無限の大きさがあります。この藁が年々少なくなるのは、寂しい限りです。
(広報みしま 平成3年10月1日号掲載記事)