歴史の小箱
(第49号) 水の町の文化財 ブリキ製の「フネ」 (平成3年7月1日号)
夏です。水の季節となりました。路地裏を走る小川にも、少しずつながら澄んだゆう水が増え始めたこのごろです。
でも昔は、こんなものではありません。川からあふれんばかりの水が、とうとうと町中を流れ、人々の生活に潤いを与え、それこそ水の季節を満喫させてくれたものでした。そうした昔懐かしい時代の、水の町三島を象徴するような生活文化財を見つけました。それはブリキ製の「フネ」といわれる物です。
形は舟型。舳先は、水の流れの抵抗を少なくするように、上を向いています。喫水線にはサビを防ぐための赤いペンキ。ハンダでていねいに接着し、水漏れにも万全。蓋もついて、屋形船の趣があります。
これを見て、懐かしさを覚える人は多いはずです。宮さんの川沿い、源兵衛川沿い、四ノ宮川沿い、御殿川沿い、桜川沿い、そのほか、そうした川から分流した小川沿いの人々は、ほとんどこのブリキのフネを使っていましたから。
フネは、ゆう水の冷たさを利用した便利な冷蔵庸でした。少し余ってしまった御飯やおかずを積み、蓋をして、直射日光の当たらない橋の下あたりにヒモでしばって浮かべておきました。当時の川には、舳先を並べて浮かぶフネと、風呂敷に包んで冷やすスイカがあふれ、三島独特の川の景色を構成していたものだといいます。
フネとともに忘れてならないのはカワバタです。ある家では川に張り出した足場を作り、またある家では川の水を家の中に引き込んでいました。すなわち、川の流れと生活が直結した暮らしがカワバタにはありました。風呂の水を汲み、洗い物をし、子供らは水遊びをしたものでした。町のそこここには共同のカワバタも少なくありませんでした。
この夏、郷土館では、「水と生活」と題して、水辺の人々の暮らしを展示します。
(広報みしま 平成3年7月1日号掲載記事)
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