歴史の小箱
(第226号)乙女ヶ淵に秘められし物語 久根郷古蹟新談(くねのさとこせきしんだん) (平成19年3月1日号)
三島市郷土資料館の勝俣文庫に所蔵される未発表の小説『久根郷古蹟新談』について解説します。
―久根の郷に住む乙女という美しい娘は、幼くして両親を失いましたが、東次という若者と結婚しました。しかし、まだ若い夫婦だったので、伯父夫婦の十右衛門と松に預けられるようになりました。
ところがこの伯父夫婦が大変な悪者で、乙女夫婦にひどい仕打ちをしました。そのせいで夫の東次は逃げ出してしまいました。乙女も世を儚んで、とうとう、自ら淵に身を投げてしまいました。
その後、乙女の両親の亡霊が、この伯父夫婦(十右衛門と松)に仕返しを始めます。最後には伯父夫婦に雷が落ち、二人とも死んでしまいました。
すべてが終わった後、逃げた夫の東次は戻って来ますが、妻も伯父夫婦ももうこの世にいません。彼は安楽寺というお寺を開いて、一族の幸せと久根の地の幸せを祈ったという事です。―
右は『久根郷古蹟新談』の大まかなストーリーです。
書かれた時期は江戸時代後期で間違いないと思いますが、作者はよく分かりません。勝俣家では滝之本連水という俳人が著名ですが、その先祖も子孫も大変な本好きでした。よって作者は代々の内の誰か、という事になるでしょう。
また、この話は久根の郷(現在の裾野市久根)に実在する地名の由来になったとも同作品中に記されています。乙女が飛び込んだのが「乙女ケ淵」、十右衛門と松が雷に撃たれた場所をそれぞれ「十右衛門野」「雷(神鳴)松」と呼ぶようになったと言うのです。もちろん事実関係は分かりませんが、「乙女ケ淵」や「安楽寺」などは実在のものでした。
平成19年五月初旬まで、本町プラザ「ふるさと歴史文学コーナー」では、企画展「古典文学の中の三島」を行っています。その中でこの『久根郷古蹟新談』も展示しています。また今回は、明星大学日本文化学部との共同開催で、学生があらすじを分かりやすくイラストにしてくれました。
そのほか『東海道中膝栗毛』など三島でおなじみの作品も学生らしいアイデアで展示を試みています。ぜひご覧ください。
(明星大学講師 勝又基)
【平成19年 広報みしま 3月1日号 掲載記事】
歴史の小箱(2006年度)
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