歴史の小箱
(第324号)豪農の本棚から―安久・杉山家に伝わる古書―(平成27年5月1日号)
杉山家は江戸時代に安久村の名主などを務めた家柄で、明治時代には初代中郷村村長となった杉山正平氏を輩出しています。杉山家には江戸時代の年貢に関する資料など、安久村の支配の様子がうかがえる古文書や、祝いの席で使用された食器類、書籍などが残されていました。
中でも書籍は数多く、四一七種七四六冊になります。江戸時代から明治時代にかけて出版されたものを中心に、国学、和歌、漢詩、歴史、園芸など幅広いジャンルにわたって所蔵されており、杉山家の人々の文化への関心の高さがうかがえます。
その蔵書から垣間見える杉山家の趣味の一つが園芸です。中でも朝顔の栽培に関する本が複数所蔵されていました。
江戸時代以降、朝顔は庶民の間で、たびたび大流行した品種です。明治三十年代には何度目かの流行の波が来て、朝顔雑誌や書籍が多数出版されました。杉山家で所蔵していた朝顔に関する本も、この頃に読まれたものと推測できます。
明治三十五年(一九〇二)に出版された岡吉寿著「あさがほ 錦之露」(写真①)は品種ごとの朝顔の花の形と色を図版で紹介したもので、多数の朝顔が美しい彩色で描かれています。
また杉山家では、菊の栽培も行なっていたようで、明治十七年(一八八四)には観菊会が開催されています。その際に参加者たちが寄書した画帳(写真②)が残っています。会には、俳関と呼ばれた伊豆佐野の滝ノ本連水
をはじめ、周辺の文人名士が多数集い、華やかなものであったようです。
家業の傍ら地域行政にも尽力し、読書を通じて教養を磨き、余暇には和歌や漢詩を詠み、園芸に精を出す、杉山家に残された蔵書からは、地方豪農層の高い向学心と充実した生活ぶりが、生き生きとよみがえってくるようです。
【広報みしま 平成27年5月1日号掲載記事】
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