歴史の小箱
(第76号) ~近代史の証人~ 「質素倹約申合規約」 (平成5年10月1日号)
旧金谷町(現、大社町)の方から、一枚の布製のぼり旗が寄贈されました。黒枠でふち取られた旗の中央には、墨で次のような四つの申し合わせ事項が、書いてあります。
申合規約
1 質素を旨とする事
1 出棺時間を正確にする事
1 一切酒を用ひざる事
1 香典返しをなさざる事
大正13年1月
三島町
内容は葬儀での質素倹約を申し合わせたものですが、こうした規約の背景にはどのような歴史性と社会的な事情があったのでしょうか。
「民力涵養運動」という国家主導の社会的な運動が、全国津々浦々にまで浸透された時代がありました。大正期、第一次大戦後のことです。
この時代、日本の経済状況は、大戦下の「軽佻浮華【けいちょうふか】」という一種「浮かれた」状態にあり、政府はこうした状況を引き締めるために「民力涵養運動」を国民に奨励し、勤倹貯蓄意識の涵養を図ったものです。運動の背後には、大戦後の民衆統合と思想動員を図り、世界の帝国に飛躍しようとする国家の大目標があったことは言うまでもありません。
また、大正12年9月1日に起こった「関東大震災」は、国民がこうした運動の推進と浸透の必要性が現実のものであることを認識するのに十分な重大事件であったと考えられます。
大正13年1月当時、三島町長は茅町【かやまち】(現、加屋町)の長谷川庄作氏でした。残されたこの一枚の旗から、当時の歴史や社会、また人々の動勢が読み取れます。
(広報みしま 平成5年10月1日号掲載記事)
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