歴史の小箱
(第72号) ~昔の台所の必需品だった~ 米揚笊(コメアゲザル) (平成5年6月1日号)
カッテバ、デャードコなどと呼ばれていた時代の台所風景を覚えているでしょうか。流し、水瓶【みずかめ】、ヘッツイなどの設備のほかに、さまざまな調理道具が備わっていましたが、その多くに竹製の道具が混じっていたものです。
カゴ類には炭籠【すみかご】や、夏に残り飯を入れておく飯籠【めしかご】などがありました。種類の多かった竹製品はザルの類だったでしょう。味噌漉笊【みそこしざる】、米揚笊【こめあげざる】など、大小さまざまな笊が整然と並べられていました。そのほかに団扇差【うちわさ】し、火吹き竹も台所には欠かせない竹の道具でした。
写真のザルは二斗五升入りの米揚笊で、たくさんのお客を招いて催すオフルマイ(お振舞い)の際や、正月用のモチをつく際に用いられていたものです。
東南アジアは竹の世界といわれますが、日本でも、関東以西の地方では野山に群生している竹林を至る所で見かけることができるほど、竹には恵まれています。この豊富で身近な竹を材料としたさまざまな生活の知恵が編み出されてきました。
春先に芽を出す筍【たけのこ】は、春の味覚として食卓にも上り、季節の食べ物として欠かせないものになっています。筍の成長にともなって剥【む】け落ちる竹の皮は食物を包む材料や、果ては草履の材料にも珍重されて利用されます。
成長した竹の利用価値は限り無くあります。一本の丸竹は、その長さを利用して竿【さお】や、稲を干すウシ(稲架)に使用され、節をくり抜いた竹管は水道管、半分に割ったものは、軒先の竹といとなりました。また、細かく割った竹ヒゴを編んで作る種々の竹製品には、竹のしなやかで丈夫な弾力性が利用され、使い易さと美しさを合わせ持つ民芸品が生み出されました。
かつて、私たちの身の周りの生活には、このような、竹との深い関わりが常にあったものです。中でも、もっとも身近だったのが、台所の竹製品ではなかったでしょうか。
(広報みしま 平成5年6月1日号掲載記事)
歴史の小箱(1993年度)
- (第81号) ~中米グァテマラの~ 民族衣装 (平成6年3月1日号)
- (第80号) ~南北朝時代の古暦~ 三島暦 (平成6年2月1日号)
- (第79号) ~なつかしい昔の遊び~ 竹ジャンメ (平成6年1月1日号)
- (第78号) ~重量を計る器具~ 棹秤【さおばかり】 (平成5年12月1日号)
- (第77号) ~竹と生活展資料より~ カニモジリ (平成5年11月1日号)
- (第76号) ~近代史の証人~ 「質素倹約申合規約」 (平成5年10月1日号)
- (第75号) ~昔の稲作道具~ わらすぐり (平成5年9月1日号)
- (第74号) ~ふるさとの画家~ 細井繁誠【ほそいはんせい】 (平成5年8月1日号)
- (第73号) ~台所の文明開化~ パン焼き器 (平成5年7月1日号)
- (第72号) ~昔の台所の必需品だった~ 米揚笊(コメアゲザル) (平成5年6月1日号)
- (第71号) ~昔の祝言の祝い物~ カネツキ(鉄漿坏) (平成5年5月1日号)
- (第70号) ~古希の祝い着~ 赤いチャンチャンコ (平成5年4月1日号)