歴史の小箱
(第71号) ~昔の祝言の祝い物~ カネツキ(鉄漿坏) (平成5年5月1日号)
写真のような銅製、高台【こうだい】付きの器をご覧になったことがあるでしょうか。
カネツキと呼びます。これは女子が婚姻に際してカネオヤ(鉄漿親)から贈られるカネツケ(鉄漿付け)道具の一つです。
カネツケとは鉄漿で歯を黒く染めることで、ハグロメ・オハグロ・染歯【そめは】などともいわれています。古釘【ふるくぎ】・古鍬【ふるくわ】などの鉄屑【てつくず】を焼いて濃い茶の中に入れ、酒や飴を加えて鉄漿を作り、歯に付き易くするためにフシの粉を用い、筆に付けて毎日歯を染めました。戦国時代末期までは、公家や上級武士の間で男子が行っていたようですが、後には女子の習俗となって定着したもののようです。
カネオヤとはこの道具を祝言【しゅうげん】に際して贈る者をいいますが、元来のカネオヤは女子が成年に際して立てる仮の親を指したものです。女子の成年は、男子の元服に相当する(これには烏帽子親【えぼしおや】を立てる)もので、女子が可婚期【かこんき】に達したしるしに鉄漿を付ける風習として近世ごろまで一般的に行われてきました。鉄漿の付けぞめに人を選んで仮の親とし鉄漿を付けてもらい、なお将来の世話をも依頼したものです。
ところで、現在は、昔とは随分異なった人生儀礼の方法となったものです。
まず、成年式である元服という呼称【こしょう】がなくなりました。現在の成年式は、男女共に、二十歳になって恒例として行われる正月15日の成人式です。各地方自治体が主導して行っていますが、かつてのような儀式も、また仮の親を立てる必要もなくなりました。
祝言に際してカネオヤを立てる習慣も今ではほとんど見ることがありません。祝言という言葉は結婚式に変わりました。カネオヤは消え、ナコウド(仲人)だけが残っています。
そのような民俗の変貌【へんぼう】の中で、カネツキは古い時代の証人といえるでしょう。
(広報みしま 平成5年5月1日号掲載記事)
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