歴史の小箱
(第75号) ~昔の稲作道具~ わらすぐり (平成5年9月1日号)
徳倉の某家から、不用になった昔の農具一式を寄贈していただきました。それらの大部分は、水田で米作りのために使用されてきた道具類で、かつて徳倉が水田耕作地帯であったことをうかがわせてくれます。それにしても、つい近年まで見慣れてきた種々の素朴な農具が今や不用のものとなるなど、時代の変化と農業の様変わりに、感慨を覚えたものです。
米作りの様変わりを象徴する農具の一つとして「ワラスグリ」を紹介します。
ワラスグリは木製の道具です。形は、丈夫な刃を埋め込んだ横木と、それを支える二本の足、藁【わら】を引いた時に持ち上がらないように人間の足を乗せる突っかい棒が組み合わされた単純形。しかしこの無骨で頑丈そうなワラスグリに、懐かしい昔の農業を思い出します。
ワラスグリの用途は文字通り藁をすぐる(扱【こ】く)道具です。収穫を終わって大量に残った藁をワラスグリにかけます。藁の根の部分の袴をしごいて取り除くためです。袴を取った藁は手を加え「筵【むしろ】」や「縄」、あるいは「注連縄」や正月の「お飾り」などに利用されます。
ところで、私達は稲作と言えば、即「米」の生産を連想しますが、米を収穫した後の藁の副産物を忘れてはいないでしょうか。
かつて、日本の稲作生産者は、藁を米にも劣らない大切な生産物として位置付け、ただ一本の藁をも無駄にしないという考えを持っていたものです。身近な生活用具や住まいの材料、または有機肥料として、藁が大切に活用されてきた事実を発見できます。藁の特質である通気性と保温性を活かした「畳」は日本文化の代表製品でしょう。家や土壁や屋根、藁囲いなどにも利用されました。そのほか「藁草履」「おひつ入れ」などの生活用具、「俵」「担ぎ俵」など生産用具にも藁製品が見つけられます。
昔は稲作農家に必ず備わっていたワラスグリでしたが、農作業の機械化、生活様式の変化、藁の利用の減少等々の理由で今では殆ど見ることのない農機具となってしまいました。
(広報みしま 平成5年9月1日号掲載記事)
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