歴史の小箱
(第68号) ~お祝いの色と形~ 水引【みずひき】・熨斗【のし】 (平成5年2月1日号)
お正月にもらった「お年玉」の袋に「のし」と書かれていたこと、袋の中央に赤い線が一本引かれていたことに気付きましたか。
贈り物に「のし」をかけて贈る風習は、昔から伝えられた習慣であり、私たちのごく身近なところで今も行われている伝統的な民俗です。
現在は贈答の儀礼も簡略化され、単に墨で「のし」とだけ書いて済ませることが多くなりましたが、本来は「のし」にも、それにかける水引にもいくつかの意味があったものです。
「のし」や「水引」をかける習慣で、すぐ思い出すのは「結納」の贈答品でしょう。結納は、嫁入り婚において婚約の確定を意味する儀礼で、現在は婿方から嫁の側に金銭のほか、スルメや昆布・酒などを、五ないし七品目を届ける習わしとなっています。
結納の本来の意味は「ユイ」で、婚姻両家が新しく姻戚としての生活関係を「結ぶ」という点にあります。したがって、結納品は「ユイノモノ」、すなわち、両家を結ぶ祝いの品物なのです。昔は、このように物を贈り合うのではなく、両家が一緒に酒肴を食べることが重要な儀礼だったようです。
この結納の贈答品に添える「のし」には、あわびを薄くのばしたものを入れ、それを包む紅白の紙には、やはり紅白あるいは金銀の「水引」がかけられます。こうした民族慣行は、古くから行われていた神事の、注連縄【しめなわ】を張り、直会に酒をのみ、魚を食べるという儀礼が一般化したものだと考えられます。
民俗学ではこのような祝いの民族慣行を日常の生活と分けて「ハレ」の行事と呼んでいます。すなわち、人生の重要な節目である祝言(結婚)に際して行われる結納の儀式は、神聖な意味を持つ大きなハレ行事です。
そして、そこで使われる「のし」や「水引」の紅白と種々の形は、祝いの意味を象徴する色と形なのです。
(広報みしま 平成5年2月1日号掲載記事)
歴史の小箱(1992年度)
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