歴史の小箱
(第173号) ~鎮守の森の二代目~ 東レ三島工場の森 (平成14年10月1日号)

すでに30年前から企業は工場周辺の環境整備に取り組みはじめています。そのひとつが三島駅の北に見える東レ株式会社三島工場の森です。
この東レの森形成には企業経営者の決断と生態学者の研究の成果が反映されたものです。1970年代、東レでは工場周辺に環境保全林作りを計画します。この時、緑化計画を相談したのが、横浜国立大学で植物生態学を研究していた宮脇昭教授(現名誉教授)でした。
宮脇氏はドイツへ留学した時に「その土地本来の本物の植物は何か」を徹底的に見極める研究をされます。本物の植物であるならば、地震や火災、土砂崩れなどの厳しい環境でも耐えて長持ちし、人の手が加えられなくても台地を包む緑となることができるのです。
そして、氏は本物の緑が実は日本各地の神社や寺の鎮守の森であることに気づき、鎮守の森を調査して全国の植物生態研究を完成させると共に、本物の森作りに取り組みはじめました。
その土地の最適植物である鎮守の森のどんぐりから苗を作り、植樹するのが本物の森を作るコツなのです。
東レ三島工場の南側道路沿いの樹林の育成は、昭和48年(1973)秋、4000人の社員が三嶋大社、龍沢寺、箱根山に行き、そこに落ちているどんぐりを拾うことから始まりました。これをひと晩水につけ中の虫を殺し、やわらかい土壌にまき、芽が出たらポット植えします。翌年6月、20センチメートルに伸びた苗を社員達が汗を流しながら植えました。木々の栄養分となるよう汚泥や古畳の藁も撒かれました。
南側道路沿いに約5メートル幅の樹林帯の誕生です。
およそ30年後の現在、タブ、クスノキ、シラカシなどの工場の林面積は約1万平方メートル余に増え、3メートル以上の高木約7000本、最高の樹高は10メートル以上あり、夏は蝉の声が響き、多くの鳥たちが集う堂々たる二代目鎮守の森に育っています。
(広報みしま 平成14年10月1日号掲載記事)
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