歴史の小箱
(第141号) ~縄文時代のランプ~ 観音洞遺跡出土の釣手土器 (平成12年2月1日号)
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釣手土器は縄文時代中期に作られたもので、主に東海地方東部や中部・関東地方に分布しており、これまで200個ほどが発見されていますが、静岡県内では5個しか見つかっていない大変珍しいものです。かつて、91軒の住居跡が発見され、400個の土器が出土した長野県井戸尻【いどしり】遺跡でも僅か4個しか見つかっていないように、全ての家で使われたものではありませんでした。おそらくは、1つのムラに1個というように、ムラの祭りに関わる大切な祭祀具であったものと思われます。
この土器が煮炊きをする土器と違うのは、なんといっても釣手と吊り下げるための紐を通す孔が設けられていることで、釣手の部分には頭がイノシシ、体がヘビの姿をした「イノヘビ」と呼ばれるシンボリックな意匠が取り付けられています。生命力の強いこうした動物の力にあやかって、この土器の呪術力を高めているのでしょう。そして、土器の内部には煤【すす】がこびりついていることから火が灯されていたことが分かります。脂肪酸分析【しぼうさんぶんせき】と呼ばれる理化学分析の結果、モズ、キジ、ニホンジカ、イノシシの脂を燃やしたことが明らかにされました。
長野県の著名な考古学者で釣手土器を研究した故藤森栄一【ふじもりえいいち】氏は、この土器を「神の火を灯すランプである」と評しました。釣手土器に火を入れるのは夜であったと思われますが、囲炉裏の火と月や星の光しかなかった縄文時代、暗闇に光るこのランプの灯火を縄文人が神の火としてあがめたことは想像にかたくありません。
(広報みしま 平成12年2月1日号掲載記事)
歴史の小箱(1999年度)
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