歴史の小箱
(第133号) ~風邪から守る婆様の力~ ギャーキバーサン (平成11年6月1日号)
川原ヶ谷の林光庵には不動さん、馬頭観音、庚申さん、ギャーキバーサンなどた祀られています。
無住ですが、中に納められている神仏は地区の人々によって厚く信仰され、堂は守られています。
その中でも珍しいと思われるギャーキバーサンについて、ご案内しましょう。
その呼称は、人により、土地によりさまざまです。三島周辺ではギャーキバーサン、ガキバアサン、キャーキのバーサンなどがよく聞かれます。解釈も少しずつ異なり、信仰の姿にも変化が見られますが、基本となるのは「風邪除け神」で、「拝めば風邪から守ってくれる」という効能が伝承されています。
清水町では、個人の屋敷に鎮座する人の姿に似た大石が「キャーキのバーサン」と呼ばれ、近隣の人々から「風邪の神さん」として信仰されています。ただし、ここの場合、キャーキは、昔、屋敷に茂っていた大きな欅【けやき】であると伝えています。
裾野市の富沢にある「ギャーキバーサン」は、川原ヶ谷と同じように堂(現在は公民館)の中に安置されている像です。その姿は恐ろしい形相をした婆様です。「バーサン」とは老婆のことを言っているのでしょう。さて、川原ヶ谷ですが、ガキバアとかギャアキバァなどと呼んでいます。やはり恐ろしい像の婆様の姿です。
では、「ギャーキ」とは何でしょう。民俗辞書を引いてみると「咳気」という漢字が当てられています。咳気すなわち「咳【せき】」のことです。すなわち、「咳気婆さん」ということです。したがって、川原ヶ谷で伝えるように「風邪の神さん」というわけです。昔から風邪は万病の元と言われ、人々は風邪をひかないようにドンドン焼きの団子を食べて、健康を誓ったものです。また、風邪を引いてしまったときには早く治るように祈ったものですが、それがギャーキバーサンだったのです。
昔から、日本の民俗では、老婆・姥の力が特別なものと見なされてきましたが、これも、そうした民俗類型の一つと見ることができるでしょう。 (広報みしま 平成11年6月1日号掲載記事)
歴史の小箱(1999年度)
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